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日本のお風呂の美学

日本の長い慣習の中で育まれた、お風呂に入るという儀式は、非常に特別かつ独特なものです。純粋に体を清潔に保つための行為というよりは、日本人のさまざまなニーズや目的を満たすものといっても良いでしょう。日本のお風呂の歴史は数千年前に遡りますが、現在もお風呂に入ることに対する情熱は衰えることはありません。ほとんどの人は毎晩、長くてストレスの多い1日の終わりにお風呂に浸かる時間を楽しみます。実際、お風呂に入ること自体が国民的な娯楽のようなものであり、多くの日本人がお気に入りの休日を過ごす場所として、温泉ホテル(温泉リゾート)をその1つとして挙げています。日本人にとってお風呂に入ることは、身体を清潔に保つためというよりむしろ、毎日の心を清める儀式と考えられているようです。

  • #TimelessContinuity
  • #HarmoniousHolistic

日本の文化は自然と調和し、自然と密接に関連しています。日本は海に囲まれた島国ですが、その至るところで見られる季節の移り変わり、変化に富んだ景色、そして豊かな水源に感謝し称える気持ちを人々は強く持っているのです。日本の人々にとって水はその歴史や芸術作品、そして生活において欠かせないもので、古く6世紀には温泉療法が実施されていたと言われています。水は心と体に恵みをもたらすものとして、仏教や神道では清めのためのさまざまな儀式で用いられています。清めの儀式を通して心身をリラックスさせ、穢れを祓うことができるのです。日本式のお風呂は、体を清潔に保つ以外にも疲労回復、鎮痛効果、美肌、柔軟性の向上、不安感の軽減、睡眠の改善など、さまざまなメリットがあるとされています。家庭での入浴の習慣は脳卒中や心臓発作、不安やストレスの解消など、医学的にも効果があることが国内の研究からも明らかになっています。日本人にとって入浴は、運動や睡眠、食事と同じくらい健康的なライフスタイルを維持するために重要なものなのです。

日本のお風呂には、公衆浴場の銭湯、自宅のお風呂、そして温泉の3種類の入浴スタイルがあります。1950年代に日本が高度経済成長期に移行し始めると、ほとんどすべての一般家庭に内風呂が普及し、昔ながらの共同浴場(銭湯)を訪れる人の数は減少し始めました。最近の研究結果によれば、日本の浴槽のある家庭の割合は95.5%にのぼりますが、それ以上にシャワーしかないという家庭がないという事実が大きな意味を持っていると言えるでしょう。欧米諸国における今日の一般的な家庭には、場所の節約やシャワーの時間効率の良さから浴槽が設置されていないことを考えれば、文化的に全く異なります。

従来、「お風呂」は大きな檜風呂を指しますが、今日の日本における家庭用のお風呂には、例えばお湯を張る時の温度調整機能や、必要に応じて追い炊きできる機能を備えるなど、大抵において現代的な機能が備わっています。また、日本式のお風呂に入るには、お湯の温度を40度から42度に保たなければなりません。日本の浴室は欧米のよくあるレイアウトとは異なり、シャワーと浴槽が同じ部屋で、トイレは別なのが一般的です。浴室は純粋にお風呂に入るだけのための部屋とされているのです。

ほとんどの日本人は夜寝る前にお風呂に入ります。寝る前にお風呂に入ることで心身の1日の汚れを洗い落とし、身体の緊張を解きほぐしてぐっすり眠るための準備を整えることができます。お風呂に入るという行為は、まず体をシャワーで洗い流してから、次に熱い湯の張られた浴槽に浸かる、という2つの要素から成り立っています。浴槽に身を預けることが体ではなく、精神を浄化してくれるものだと考えられているのです。浴槽に入る前に、シャワーでメイクを落とし、体や髪を洗います。シャワーの後、お風呂に入る前に石鹸をしっかりと洗い流してからお風呂に入ります。湯気が立ち上る日本のお風呂は温度が40~42度と、世界の他の国々と比べてもかなり高く保たれています。健康促進のために肩までしっかり10~15分間浸かれるよう、浴槽は深く作られています。

古代の武士が戦の後に休息をとり、傷ついた体を治すために温泉を訪れたのと同じように、変化のスピードが早い現代社会に生きる私たちも、熱く深い浴槽に身を沈めることで気持ちの良い癒しを得ることができるでしょう。このセルフケアのプロセスを毎日行うことで、スマートフォンやソーシャルメディアとの絶え間ないつながりから身を引き、自分自身に意識を集め、社会や喧騒から離れて心と体をリセットすることができるのです。日本人に本質的に備わっている健康と美に対するホリスティックな視点は、世界中で理解が深まり、取り入れられつつあります。医学的にお風呂を研究する分野の第一人者で、東京都市大学教授・医学博士である早坂信哉氏は、自身の著書『最高の入浴法』の中で、「マインド“フロ”ネス」という言葉を使用して、ホリスティックな健康とウェルネスの古代哲学の考え方を踏襲する日本式のお風呂の入り方とその健康効果の関連性について、世界の人々に向けて情報を発信しています。ストレスの多い今の世の中で、日本式のお風呂はこれまで以上に現代の生活に大きな意味を持つようになってきていると言えるでしょう。

ですから今晩はゆっくり時間をかけてお風呂に入ってみませんか。アロマやバスソルトをお湯に入れ、瞼を閉じ、ゆっくりと深呼吸をし、浴槽に身をゆだね、「マインド“フロ”ネス」なひとときを過ごしましょう。

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